前回、衰退産業として、理髪店をあげましたが、今回ははんこ店(印鋪)のお話し。私の友人が縁あってフランチャイズチェーンの印鑑店舗を譲り受けたのが5年前でした。印鑑販売の需要は右肩下がりであったけれども、チェーン店舗の場所がオフィス街にあったこと、印刷にも手を広げていることで経営は比較的安定していて投資先としては悪くない選択でした。
ところが、2020年の11月に政府から約9割の行政手続きで印鑑が不要という決定がなされ、翌年2021年4月から実施されてしまいました。印鑑不要は行政手続きの効率化として以前から話題にはなっていましたが、コロナの流行が追い風になって一気に法改正が進み、印鑑不要ということになりました。
印鑑業界にとっては、印鑑不要は将来的に売上の激減につながるということで、チェーン店以外で新規の参入はなく、今まではんこ店を経営してきた経営者もこれを機に廃業する人が増えたようです。9割の行政手続きに捺印は不要といっても、会社を設立した時には、実印、銀行印、社印の三点の印鑑は必要になります。9割が不要だからと言って印鑑を作らないわけにはいきません。契約書の作成・銀行取引で印鑑は必須になります。9割の行政手続きで印鑑が不要ということは、9割の印鑑の市場がなくなるのではなく、印鑑を購入したひとにとって印鑑を使う機会が9割減ったということになります。印鑑不要のニュースを前者のことだと思って廃業する店舗が増えたのでしょう。
友人のはんこ店は景気が良いようです。なぜ、友人のはんこ店の景気は良いのか? それは市場から競合が退場すると、市場に生き残った者がマーケットの売上を総どりするという現象が起こるからです。ここで参考になるのがランチェスター戦略の市場シェアの考え方です。市場で競合が乱立するなかで、どのくらいのシェアを持つと経営が安定するかの基準ですが、次のようになります。
シェア 26.1% マーケット内で一番とされる目標。ただし競合もすぐそばにいるので安全ではない シェア 41.7% マーケット内で独走首位状態。競合との差も大きく首位がひっくり返される不安は無い シェア 79.3% マーケットで独占状態。値付けも自由にできる。総どりの状態を作り出せる
通常は営業活動や、新製品の投入によって企業はこのシェアを確保しようと躍起になるのですが、衰退業界では競合が退場していくことで、結果的にシェアを確保できるという現象がおきてきます。衰退産業のすきまです。衰退産業でも一定の需要がある場合には、競合が退場するまでじっと待つということも戦略の一つになります。ただし、生き残るためには、オリジナリティーや有利な条件を維持して、競合が環境の悪化に耐え切れず退場するまではじっと我慢することも大切です。
最近ではインボイス制度にからみ、インボイス登録番号用のスタンプの発注が増えて、特需状態であるとのこと。なにが追い風になるかわかりません。